INTERVIEW
これまでのキャリアを教えてください。
工学部の大学院を修了して、ボストン・コンサルティング・グループからキャリアをスタートしました。様々な業界で30以上の案件に携わったおかげで、経営や事業を見る基礎力を養うことができました。主には成長戦略を扱うことが多かったですが、中でも新規事業開発の案件には自ら進んで参画していましたね。「未踏のジャングルに足を踏み入れては、何か面白い宝物を見つけてくるヤツだ」なんて言われることもあって、誰も何も見えていない混乱の中から新たなビジネスの種を定義して切り出していくのが楽しく、夢中で動き回っていました。
その後は経営企画としてアパレル企業に転職しました。アパレルは、商品の企画・開発から生産、そして消費者への販売までと、川上から川下までのバリューチェーン全体を直接コントロールできる数少ない業界の一つです。戦略変数が多く、打ち手の自由度の高さに好奇心をくすぐられていました。実際に入社してからも、複数の経営会議を事務局として運営しつつ、その時々の経営課題となる改革プロジェクトを推進していたのですが、マーチャンダイジング・販売・生産・物流・ブランディングと、ほぼ全領域の改革に携わらせてもらいました。こうした変革を通じて組織や人をいかに作り、育て、動かすのかについて、数多の成功と失敗例から自分なりの洞察を得られたことが今の仕事にもいきています。
もう一つ、当時は大の服好きでして。どんなに忙しくても週末になると、朝から晩までお店を見て回っていたんですよね(笑)。これがアパレルを選んだ、もう一つの理由でした。
石井さんは実は根っからの“混乱”好きだそうですが。
子供のころからお祭り大好き人間でしたね。不謹慎かもしれませんが、混乱状態に出くわすと血沸き肉躍るといいますか、それと近しい感覚で自然と戦闘モードになるんですよね。物事が順調なときにはあまり出番はないのですが、問題や混乱が生まれ、かつその場を適切にリードする人がいないときに自然と前に出ていく、そんなところが少年の頃からありました。アパレル企業でも、何か問題が起きていそうなところを嗅ぎつけては首を突っ込んでいくことも多く、混乱ラバーなところが表れていたと思います。
問題に首を突っ込んだ後はどうなるのでしょう?
どんなに状況が混乱していても、最後には何とかする、必ず出口を作る。それが得意だと思います。いま置かれている状況と将来の選択肢の全体像を構造化して示すだけで自然と解決することもありますし、それでは足らず、多少強引であっても停滞感を打破するべく突破口を拓いていくこともあります。状況にもよりますが、例えば、あえて支援先企業の社長を怒らせる。それでビール瓶で殴られそうになったこともあるのですが(笑)、そのように本音を表に出させることで組織に新たな動きを生じさせる、そういうケースもあります。それは動的な対応の一例ですが、納得感が醸成されるまで必要な一定時間を共に過ごすという静的な対応が最適だろうと判断することもあります。
クライアント企業の状況によって対処が変わるのですね。
はい、ケースごとに策は変わります。変わらない点があるとすると、経営者や社員の気持ちに寄り添って伴走する姿勢でしょうか。いくら良い戦略を練り上げても人は理詰めでは動けないですし、組織のしがらみや政治的なパワーバランスも汲んでいかないと、会社に変化は起こせないと信じています。先ほどの混乱ラバーな性質もあるからなのか、たとえ火中であっても身一つでポンと飛び込んでいくタイプなんです。事前にあれこれ策を弄するよりも、まずは入っていく。そして一緒に肩を並べ、共に出口を探していく。それが自分のスタイルなのかなと最近感じています。
クライアント企業の中に入って業務を執行するにあたり、意識していることはなんですか?
私はオープンマネジメント® に登録頂いている経営人材の方々と支援にあたることが多いのですが、例えばその方が社長として参画している場合は、企業の社長として真に活躍してもらえるよう、全力で支援することを意識します。経営人材の方々が社員からも関係者からも認められ、自らリーダーシップを発揮して会社を目指す方向へ率いている状態に持っていくこと。そのためには、会社の目指す姿については一緒に頭を悩ませますし、必要なあらゆる武器も渡します。変革の局面では厳しく当たることもあります。いかなる局面においても、経営者として真に立って職務を全うしてもらう。まず、これを意識しています。
もう一つは、その会社・事業の個性を見出すこと、磨いていくこと、でしょうか。この会社の固有の価値は何なのか、どう磨けばより光るのか。常にそう自らに問いかけ続けています。中堅中小企業というのは、もともと個性が際立つ余地が大きいんです。大企業だと大きな市場で大きなパイを取らないと存在価値がないですが、中堅中小であればニッチ市場でも勝てば大きな価値になる。事業としての成り立ち方は多様に存在しますし、企業としての生き方も個性を放てる余地が大きいんですね。その企業ならではの個性の在り方については、最初から最後まで強く意識しています。
そうしたクライアント企業のなかでの業務執行にあたり、TRAIL INC.の果たす役割はなんでしょうか?
私たちは正論よりも動かす力を大切にしています。論理を組み立てて理詰めで動かそうとする左脳的なアプローチよりも、組織の機微を理解して感情面から動かしていったり、裏技のような策を練り上げたり。ルールに則ったきれいなボクシングではなく、なんでもありのストリートファイティング、というとわかりやすいでしょうか。
そのためにはクライアント企業との信頼関係が欠かせません。いい関係を築く秘訣はなんでしょう?
クライアント以上に「自分ごと」として動くこと、これに尽きると思います。これさえあれば、行動にも出るし、発言にもにじむし、正しい決断をしようと真剣に先を見通すようになります。社員の思いに触れて思わず涙したり、責務を果たそうとしない立場あるものに接して怒りに震えたり。自分ごと化すると、そうした熱い感情を伴うこともあります。一方で、会社や事業の重要な決断となれば、冷徹な判断を下します。社員や会社に対して責任ある判断を下すべく、責任意識も自分ごとにしています。こうした熱さと冷たさの共存した姿が「自分ごと」の本質なのだと実感しています。