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News & Column お知らせとコラム

コラム

リノベーションのすすめ

・イノベーションとは、そもそも何か

・イノベーションより大切な経営の行動習慣とは

・足元にはリノベーションの機会がたくさんある

イノベーションとは、そもそも何か

猫も杓子もイノベーションを叫ぶ時代となりました。イノベーション、真っ盛りです。

かといって、メディアやイベントで喧しい声が多々聞こえてくる割には、果たして何か大きな変革≒イノベーションがこの10年において日本で起きただろうか?と疑問を持つ方が多いのも事実でしょう。イノベーション待望論が根強い背景には、それだけ今は閉塞感が強く、これからの方向感が極めて不透明な経営環境にあるからだと思います。

ところで、イノベーションとはそもそも何でしょうか。皆さんはどのように定義されているでしょうか。イノベーションと一言で言っても、実に企業や人によって定義が異なり、様々な回答が返ってくることに驚かされます。私たちは、イノベーションを「0から1を生み、顧客、提供価値、バリューチェーン、技術、マネタイズのいずれかに、今までのもの/やり方とは全く違った新しい工夫(問題解決)を行い、市場を創造すること」と理解しています。

なかでもイノベーションにおいて最も大切なポイントは「市場の創造」です。創造された市場の大きさによっては、ある人(取り組んでいる当事者)にとってはイノベーションであっても、ある人(市場や投資家)からは大したイノベーションとは評価されないことが間々起きています。(※1)(※2)また、ユニコーンなどといった時価総額主義も、必ずしも社会インパクトの大きさを示すものではなく、あくまでそのように考える投資家がいる(多い)、ということに過ぎません。

イノベーションより大切な経営の行動習慣とは

イノベーションを追求することは、結果として事業の競争力を増し、企業に進化をもたらすかもしれません。ただし冒頭にも述べたように、イノベーションを起こすことは現実には極めて難しく、とりわけイノベーションは自ら“これがイノベーションだ”などと決めるものではなく、あくまで市場の評価や結果であることからしても、経営の目的に据えるにはやや現実味に欠ける印象です。あくまで企業は進化と成長を求める組織体であって、イノベーションを志向することはそのための(動機付けなどの)一つの手段に過ぎないと認識しています。

私たちは、イノベーションを志向されるような企業にとっては、むしろ経営にとって最も重要な主題とは、経営が日々取り組んでいる実際の行動と、その習慣をどのように変えられるか、にこそあるのではないかと考えています。とりわけ、1. 今ある市場そのものを広げる、または再定義する(顧客に提案できる価値の種類を増やす)こと、2. 競争優位をもたらす経営資産を新たに造る、或いは外から獲得すること、3. 収益を増幅し続けられる商圏・商流構造を開発及びより強固に維持することにつながる行動の連続=習慣化が、経営に成果をもたらします。これら1~3の全て、或いはいずれかを経営目的に据えることではじめて、自社を進化させる、又は事業の競争力を向上させる戦略を取ることが可能となってきます。その結果としてイノベーションが起きたかどうかについては、あくまで周りが判断すればよいことでしょう。

私たちはこの3つの行動の束ねと連続を志向する経営方針及び一連の戦略を、「リノベーション」と表現しています。究極的に経営の目的が、企業の進化や事業の成長であるとするならば、常にリノベーションが徹底され習慣化している限りにおいて、企業の競争力が衰えることはありません。繰り返しになりますが、結果的にイノベーションが起きようが起きまいが、関係はありません。

近時のオープンイノベーションや海外スタートアップ市場への参入など、様々な企業が懸命に取り組んでいることを否定するものではありません。ただ、そのような行動が結局のところ、進化や成長につながらない“青い鳥探し”になっていないかどうか?、或いは狙っている目的や位置づけが曖昧なまま、経営成果として小粒なものばかりで継続性と拡張性あるものを期待できるのか?などが、そろそろ問われても良い時期だと思われます。

足元にはリノベーションの機会がたくさんある

既存事業の顧客基盤(範囲・種類)を広げる/再定義すること、商流上の取引先の市場を取り込むこと、周辺技術たるシーズに事業性を持ち込むこと等は、仮に小さい案件であったとしても全くの新規案件に比べれば「わかっている」または「理解できる」ため、経営リスクもコントロールがしやすいものです。

私たちの経験によると、歴史ある企業であればあるほど、リノベーションを進められる機会は実のところ多く存在しています。例えば、その企業にとっての“当たり前”が増えてしまって見落とされているものや、案件規模が小さくてイノベーションとは呼べないから・・・といった理由で表に出てこないものなどを束ねることによって、着実に成果を積み上げることができます。

経営にとっては、影も形もないイノベーションばかりを追求するだけではなく、着実にリノベーションを推進していくことも、現実的な選択肢の一つです。

(※1)経営戦略の柱にイノベーションを掲げたり、事業開発の目標にイノベーションを標榜したりする企業が増えた今、“何をどのレベルで達成したいのか”の定義を明確にしておくことは、戦略方針のブレや周囲の理解とのズレを防いでくれます

(※2)ピーター・ティール氏の創業したファンド「FOUNDERS FUND」のマニフェストにある、「僕らは空飛ぶ自動車が欲しかったのに、手にしたのは140の文字でした」は象徴的な事例です

戸田 隆行

TRAIL INC.代表。慶応義塾大学 法学部卒。経営者の意思決定支援及び事業ライン統括実務に精通。PwCコンサルティング、フロンティア・マネジメント、素材系ベンチャー執行役員・経営企画部長を経て、2016年TRAIL INC.を創業。

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